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東京に20年以上住んでいるけど、


踏んでない土地がたくさんある。



だいたい中央線をウロウロしているが、


東の方とか都心は未踏。


京成線は乗らないし、


六本木だ品川だ、ってのはまず行かない。


歌舞伎座のある銀座へ多少行くぐらい。


麻布・白金・碑文谷・目黒・駒沢・深沢


北区・足立区・墨田区…


まぁ行かない。





先日、友人と江戸時代の地図を見ていたら


『溜池』という地名が目についた。


溜池山王ってところだ。




江戸時代は実際に溜池になっていたようで


外堀の一部を形成していたらしい。





溜池山王。


駅名としては聞いたことがあるが、


降り立ったことはない。


そこに何があるのか。


すごく行ってみたいじゃないか。







ある晴れた休日、丸の内線を赤坂見附で降りて


探索することにした。


溜池に池はあるのか、この目で確かめよう。


山王って、山でもあるのか確かめよう。


そう思い立った。


要するにヒマだったのだ。







溜池へ行くにあたり、僕が立てた推理は2つ。


埋め立てられた(らしい)溜池。


とはいえ、小さな水溜まりぐらいは残っているのでは?


これがひとつ。


もうひとつは、


溜池は盆地になっているのでは?


ということ。




僕の予想では、溜池の中心地に立ったとき、


360°、山がある。


そんな推理をした。






検証当日。


結論から言えば、溜池山王に池はなかった。


水溜まりすらない。


そこには外堀通りとオフィスビル、


神社と首都高があるだけだった。







無いんかい!


もう溜池を名乗るなよ。


それが率直な感想。



だがしかし、


推理のひとつが当たっていた。




溜池の中心地から周囲を見渡すと


坂がある。急な坂だ。


台地のようだ。


ひとりブラタモリ、やるしかないじゃないか。









溜池の交差点(溜池という地名の残る交差点だ)、


そこから急な坂を登る。


都心の昼間だというのに、人がいない。


なんだここは。


港区赤坂。


高級住宅街に迷い込んでしまったのか。



以前、平日の昼間に松涛を歩いたときのような


孤独と憧憬を肌で感じとる。


都心なのに人がいない。静かだ。



坂道沿いに広い区画があり、


高い塀で囲まれている。


高級住宅街にありがちなやつだ。



どんな金持ちが住んでいるんだ。


孫正義か。


荒れる鼻息を抑えながら、塀沿いを歩く。


そのうちに、


塀沿い10メートル間隔で制服の警察官が立ち始める。





あれ?これやばいやつ?


東京で飼い慣らされて敏感になった


僕の妖怪アンテナが、いきり立つ。





警官の前を通りかかったとき、そのひとりに声をかけられる。


手には伸ばされた警棒が握りしめられていた。


若い警官だ。



「こんにちは!」


爽やかな声音で、声をかけられた。







さすがに40にもなるとわかる。



この「こんにちは!」は一般的な昼の挨拶ではない。


平日の昼間にキョロキョロしてうろつく男へ放つ


国家権力からのジャブだ。






はっはっは。


おまわりさん、鈴木は無害です。ご心配なく。


ただのブラスズキなんですから。









で、この警備の厳しい施設はなんなのだ。


有名な施設のようだ。


ここで捕まるわけにはいかない。


店もある。養育費もある。


後ろ手に回されて、「離せえ!」みたいな映像を


夕方のニュースで流すわけにはいかないのだ。







「こんにちは!」


できるだけ明るく返した。


怪しまれるようなことは、なにもしていない。


すかさず警官の腕章を調べる。











【首相官邸警備隊】





なん……だと!




この高い塀で囲まれた建物は首相官邸だったか!



そりゃ警備が厳しいわ!






っていうか、首相官邸、すげーいい立地。


となりに首相公邸。


すげー良い。



ちょっと歩くと衆院議長公邸。


これも半端ない土地の使い方。



やべーなと。








配置についた首相官邸警備隊は


皆そろって警戒度が高い。


そこらへんのビルの警備員とは、訳が違う。


まさに今、敵襲を迎えようとするが如く


視線と姿勢に強張りを感じるのだ。


臨戦態勢すぎやしませんかね。






今日は別に、バイデン大統領が来日するわけではない。



もちろん、プーチンも来ない。


なぜそんなに警戒を?


だれか来るの?




誰も攻めてきませんよ、もっとリラックスして。


こんな平和な日本で、


白昼堂々と官邸を襲う輩などいるはず───、


そんな声をかけたくなったとき、気づいた。






俺か?




俺なのか?








俺が敵だと

思われている?!









この平凡な理髪店主を危険分子と?




いやいやいや、ちゃいます!



前科なし、納税記録ありです。悪者じゃないです。


あわてふためいてそんな説明すると


余計に怪しく、途端に囲まれると察して


まっすぐ前を見て、手足を高く行進し、


溜池山王を後にしました。





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