あの時どんな声をかければ良かったのか?


と思い返すことが、たまにある。






過ぎたことなので思い返しても仕方がないのだけど、


もうちょっとマシなことを言えたのではと、


心にうっすら雲が拡がる。







たいていの場合、それは別離の局面で訪れる。



恋人・友人・家族・同僚。


破局・喧嘩・死別・転勤。



「さよなら」に何かしら付け足そうとすると、


うまい言葉が出てこなくて失敗する。


なぜ「さよなら」に付け足すと失敗するのか。


それは、去り行く相手に僕があまり興味ないからだ。


興味の無さを取り繕うかとしたとき、ボロが出る。










先日、朝のゴミ集積所でマンションの隣室に住むおじさん(50代)が


声をかけてきた。



この部屋に住み始めて約2年。


会話をするのは初めてだ。


引っ越しの挨拶も、おじさんの玄関ノブに菓子袋をひっかけて


『時節柄、対面による挨拶は控えさせていただきます。』


みたいな内容のメモを添えた。









おじさんは引っ越すらしい。


「今日で最後なんです。」


小さなお菓子の包みをくれた。


メガネをかけた小柄な男で、玄関前の観葉植物に


よく水をやっている。


ちゃんとした人なのだ。たぶん。


でも興味はない。








さて、なにか言わんとな。


お菓子に対して「ありがとうございます」は言った。


おじさんは朝日を正面から浴びて、まっすぐこちらを見ている。


なにか言って欲しいのか?


なにか言わんとな。









「またどこかで」 → キザすぎる。


「お世話になりました」 → 世話にはなってない。


「わかりました」 → 怖い。





引っ越す隣人にかける言葉の正解はなんなんだよぉ。












朝の頭をフル回転させて出てきた言葉が




「おつかれさまでしたッ!」



だった。





もらった菓子を手に頭を下げ、


地面を見ながら


(仕事じゃねーし)なんて思いがわく。


部活でもねーし、なんなら疲れてもいねえ。



もうちょっとマシな言葉は無かったのか。




おじさんは曖昧な顔をして去っていき、


その夜帰宅すると、ポストにガムテープが貼ってありました。










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